鎌倉高校の何気無い日常 3
「まったく! 兄さん、どういうつもりだ!」
「お!? 帰って来るなり、ただいまも言わず、何の言いがかりだ?」
「言いがかり? 来週の調理実習だよ! どうして1−3が2−6と合同授業なんだ?」
「俺が知るかよ! 鈴Tが説明したんじゃ無ぇのかよ?」
「鈴木先生は何も」
「(鈴木先生、俺に丸投げするつもりか? ったく!)で、なんで俺なんだよ!」
「兄さんのクラスのは家庭科、新井先生だろう! 兄さんの事だからな、家庭科の先生方に調子よく、
弟の譲を望美のお目付役にしておけば万事OKだ、ラッキーだろ、とかって言ったに決まってる」
「(やべ、譲の奴、こういう事は妙に鋭いんだよな)おいおい、証拠はあるのか、証拠は!
証拠も無いのに決めつけるな!」
「兄さんの普段の行いを観てれば、分かる事じゃないか。
どうせ、上から目線で『極楽寺の有川家とか春日家が爆発したなんて話、聞いたことあるか』とかって言って
変な説得力で先生方に恩着せがましく、偉そうに言ったんだろう。で? 交換条件は何だったんだよ?」
「交換条件なんて、そんなモノは無い」
「やっぱり言ったんだ」
「あ……。だ、だって考えてもみろ」
「考えたく無い」
「望美が可哀想だとは思わねぇのかよ」
「……そりゃあ…」
「お前、小学校からだぞ。延々家庭科の調理実習のたびに何かあって。
しかも年々その『何か』のパワーというかスケールというか、とにかく派手になってきてるだろ」
「……、ああ…」
「あいつが何かしたわけじゃねぇのに」
「それは学校中が知ってる」
「新聞は? それを読んだ望美を知らない奴らは?」
「……」
「1年の時は新聞の地方欄。12月はローカルとは言え、テレビ神奈川が取材を申し込んできたって話だ」
「だんだん話が大きくなってるってことか?」
「今度何かあったら、全国ネットって可能性もあるぜ」
「まさか……」
「だから、お前の力が必要なんだよ」
「何も俺じゃなくたって、兄さんがいれば……あ」
「分かってくれて、何よりだ。過去、俺は何度か望美と同じクラスだった事はある」
「それでも、ずっとダメだったんだ」
「そう。その上、12月は俺がいなかったからな」
「それで、いっそう先輩、パワーアップしたんだ……」
「そういうこと。だから」
譲は何かを考えているようだった。
「……分かった」
「お、ラッキー。分かってくれたか、弟よ」
「ラッキー?」
「あ、いや、サンキュー! 譲、やっぱりお前は頼りになるぜ」
「やれやれ、調子いいんだから、まったく。
こんな兄さんのどこを信じて、平家の人達は『還内府』なんて言って従ってたんだ?
言っとくけど、これは兄さんの為じゃないからな! 先輩にこれ以上何かあったら可哀想だからだ」
「サンキュー、サンキュー」
「じゃ、兄さん。兄さんにもやってもらいたいことがある」
「お、OKOK、俺に出来ることは何でも手伝うぜ」
「じゃあ、実習前に家庭科室にある食器、全部汚しておいてくれ」
「はぁ??」
話は職員室での将臣と家庭科の先生方との会話に戻る。
「〜〜極楽寺の有川家とか春日家が爆発した、なんてニュース聞いたことがあるか?」
「あ!」
「気が付いたみたいだな。そういうことさ」
「それが譲君だと」
「そういうこと。OK?」
「で、どうすれば?」
「おぉっと! 詳しい説明をする前に、条件がある」
「条件?」
「そう。それを呑むって約束してくれたら、だな。説明は」
「あなた、教員と取引するつもりなの?」
「でもお互いに悪い話じゃぁ無いと思うぜ。先生方は調理実習最大の悩みが解消される。
俺も現在抱えているちょっとした悩みが解消される。OK?」
「冗談じゃない! 有川君! あなたね」
「新井先生」
呼んだのは、さっきから聞き耳をたてて3人の会話を聞いていた教頭だった。
「新井先生、ちょっと」
「は、はい? 有川君、ちょっとここで待ってなさい。いいわね」
そういって、新井教諭は教頭席まで小走りで行く。
「何でしょう? 教頭先生」
「彼の話は信じられるのかね?」
「有川君ですか? まぁ少なくとも、嘘をついて大人をからかうようなタイプではありませんが。まったく」
「では、彼の条件というのが何なのか、是非聞いてみたいモノですね」
「え? まさか教頭先生…」
(どうして教員という人種は、内々の話をひそひそと小声で話す事が出来ないのだろう?
これじゃぁ、職員室中に、生徒とこれから取引しますと宣言してるようなものなのに)
そんな事を思いながら、新井教諭と教頭の会話を、聞くとはなしに聞いていると
新井教諭が教頭席の脇から将臣を呼んだ。
「有川君、ちょっといらっしゃい。有川君!」
09/08/16 UP